雨読メモ27/18 『鉄道員』 2018/11/14
中学から高校のころイタリア映画が輝いていた。マカロニウエスタンではない。例えば「道」。フェデリコ・フェリーニ監督作品でニーノ・ロータの主題曲とともに思い出す。「甘い生活」や「刑事」もよかった。
なんといっても「鉄道員」。ピエトロ・ジェルミ監督・主演作品で、カルロ・ルスティケリの主題曲は終生忘れられない。家庭では頑固一徹の老いた鉄道機関士、SLから電気機関車に切り替わる時代の悲哀、年の離れた末っ子の息子とのほのぼのとしたふれあい…。何度見たことか。
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『鉄道員』(浅田次郎著・集英社文庫・2000年刊)

書店で目にするたびに、あのイタリア映画がよみがえる。でもこの本のタイトルには「ぽっぽや」とルビが振ってある。紛らわしいことに、この作品は映画化されて話題にもなった。で、とうとう買ってきて読んだ。
目次を見て、本書が8つの作品を収めた短編集であることを知った。本のタイトル作品が冒頭に出てくる。映画は見ていない。亡き妻や娘をめぐる幻想的な記述、同僚との深い交わり、北海道のローカル線、定年を前にした終着駅の駅長、そして雪の中での死。一気に読み終えた。
続いて「ラブ・レター」。偽装結婚に名義貸しした、いかがわしいビデオ屋店長宛てに、顔も名前も知らない中国人「妻」から届いた死後の手紙。売春婦として千葉で働く彼女が、たどたどしい感謝の言葉とともに綴っていたのは、自分を同じ墓に埋めてほしいという願い…。
「角筈にて」「うらぼんえ」などに続いて、巻末作品が「オリオン座からの招待状」。
京都・西陣の元歓楽街にある映画館の閉館、その街で子供時代をともに過ごし、東京に暮らす別居夫婦に届いた招待状。複雑な思いを胸に向かった京都。子供のころそうだったように映写室から見る最後の映画は「幕末太陽傳」。館主亡き後、館主の妻と結婚して館を守ってきた映写技師。彼が語るオリオン座と西陣をめぐる物語は、親から聞かされていたうわさ話とは違っていた。そして、日帰りで東京の別居暮らしに戻るはずの二人は、京都駅へ向かうタクシーの行く先を老舗ホテルに変えた。
どれも実に濃密な作品だ。好みは人さまざまだろうが、僕が選ぶとすれば、「ぽっぽや」「角筈にて」と「オリオン座…」かな? 特に「オリオン座…」は西陣の灯が細くなり始めた時代が舞台。それは1960年代前半、僕の学生時代とぴったり重なる。そのころはまだ水上勉の『五番町夕霧楼』の舞台が名残をとどめていた。
読み終えて知った。この短編集で浅田は直木賞をもらったという。思わず拍手したくなった。この先、何度か読み返す予感がする。