雨読メモ20/18『任侠書房』ほか 2018/09/01
もうかれこれ2か月近く「雨読メモ」から遠ざかっていた。猛暑とか草刈りとか、本を開くような心境になかったこともあるにはある。でも本と縁を切っていたわけではない。難解な文庫本の上下2冊に難儀していること、そして余りにも奇想天外な文庫3冊にド肝を抜かれたこと、これらが「雨読メモ」が書けなかった一因だということにしておこう。
奇想天外な文庫。それは組員たった6人のヤクザが、つぶれかかった出版社、高校、病院を、持ち前の任侠精神で立ち直らせるというシリーズである。肩の凝らない本を、というので衝動的に買ってしまった。買ってしまったのでついつい読んでしまった。
************
雨読メモ20/18 『任侠書房』『任侠学園』『任侠病院』
(今野敏著・中公文庫・2007~15年刊)
義侠心の権化のような親分・阿岐本雄蔵のもと、人一倍忠誠心の強い代貸(ナンバー2、関西ヤクザの世界では若頭というらしい)の日村誠司、けんかがめっぽう強い三橋健一、元暴走族にして親分の車の運転手・二之宮稔、パソコンオタクの元ハッカー・市村徹、女たらしの天才で下っ端の志村真吉。
困った人を見かけるとほおっておけない性格の組長、彼と兄弟杯をかわした永神組の組長が債権のとりまとめで手に入れた神田の出版社の再建を頼み込まれる。ヤクザでありながら文化人願望を抱き続ける阿岐本組長は、出版社の社長として乗り込み、部下を役員にしてしまう。
債権の取り立てならお手のものだが、社長(組長)以下だれも出版のことなどちんぷんかんぷん。パソコンオタクがまず出版界のトレンド情報を収集。グラビア週刊誌に光明ありというので、女性にもてもての志村の手腕で女性編集長を口説き、モデルをたらしこんでトレンディな雑誌を発行する。
これが見事に当たって社運が上向きになり、さらに業界つまりヤクザの世界の内幕もので業績を伸ばす。とまあ、こんな調子で再建を果たすとさっさと手を引いてしまう。
次のシリーズ『任侠学園』は、荒れた私立高校の立て直し。学園理事長に就任した阿岐本組長は、高額寄付で学園を牛耳る一派に対抗して、「生徒はみな舎弟」という精神で生徒を味方につけ、さらに正義感の強い教員を巻き込んで再生を果たす。
『任侠病院』は、まず薄汚れた病棟を部下たちの献身できれいにする。そのうえで病院の清掃、食事、消耗品の納入を一手に握って暴利をむさぼる業者(実はヤクザの裏稼業)と対決して勝利するというストーリー。
どの作品も、言ってみれば企業再生の物語だが、それを担うのがヤクザという着想がユニーク。しかもわずか6人の組員の個性を巧みに生かしている。パソコンを駆使して業界の動向を探ったり、女性事務員や看護師を言葉巧みに味方につけたり…。
外見はヤクザそのものながら精神は「不正義を許さない」というか義侠心というか、そういう位置づけだから、読んでいて小気味よい。10日くらいかけて読むつもりが3冊を3日で読み終えてしまった。